スイスで二極化広がる? 活動家・難民申請者に反感も

スイスのシンクタンク、Pro Futurisとメルカトル財団が3月に発表した「二極化調査外部リンク」は、スイスの公共機関に対する信頼が低下し、国内の感情的二極化が大きくなっていることを明らかにした。

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同調査はベルン大学が実施した世論調査から分析した。
回答者の7割は、「スイスの社会的結束が近年低下した」と感じている。一方で「政治的に異なる考えを持つ人々との対話」への欲求は高い。だが現実には、調査対象者の2割以上が「過去1カ月に自分とは異なる考えを持つ人と対話」しなかったと回答した。
スイス国民の意見の二極化は個々の問題に関してだけではなく、感情面でも起きている。ある政党の支持者は同じ考えを持つ人々には共感を、異なる考えを持つ人々には反感を抱く。
その傾向は保守右派の国民党(SVP/UDC)支持者で最も顕著で、左派・社会民主党(SP/PS)支持者が続く。穏健派政党の支持者の反感は比較的低いが、自由緑の党(GPL/PVL)支持者は国民党支持者に対して強い反感を抱くという特徴もある。
気候活動家や難民申請者に対する反感
二極化研究では政治的・社会的集団に対して抱く感情についても尋ねた。「気候活動家」は環境政党の緑の党(GPS/Les Verts)からは評価されているが、右派政党の支持者からは強く拒絶されている。
「反コロナ対策派」への反感も強い。「難民申請者」や「資産額上位1%」にも多くの敵意が向けられている。
米国ではこの10年で感情面の二極化が大きく広がった。第2次ドナルド・トランプ政権が始まる前から、米国の政治学者たちは他陣営に対する反感の高まりが民主主義を危険にさらしていると警告していた。
一方スイスでは、スイス公共放送協会(SRG SSR)の調査に基づくバーゼル大学の調査(2024年)が「過去20年、感情の二極化はほとんど変化がない」ことを示したばかりだった。
Pro Futurisのイヴォ・シェラー氏はswissinfo.chに、分極化研究は2024年の結果と矛盾するものではないと話した。
連邦内閣やメディアへの信頼も低下
社会の結束には、議会や政府への信頼が不可欠だ。Pro Futurisの調査は、 「科学、司法、警察は高い信頼を得ている一方、政党、議会、連邦内閣(政府)、とりわけメディアの評価は著しく低い」と総括している。
その数字は衝撃的なほどだ。「議会を強く/非常に強く信頼している国民はわずか34.2%。連邦内閣では42.5%」だという。
これは直近2024年の経済開発協力機構(OECD)調査でスイスが得た評価を大きく下回る。OECDはスイス国民の61.9%が政府に対して高い/中程度に高い信頼感を抱いている。同じ年の調査対象国の中で最高値だった。政府に不信感を持つ人の割合は23.6%で、スイスは最も低かった。
Pro Futurisの二極化調査は、政府をほとんど/全く信頼していない人はわずか23.1%だった。OECD調査との齟齬は、方法論にも関係している可能性がある。Pro Futurisは、「中程度の信頼」を「緩やかな信頼」ではなく「中立」に分類した。
その点で、メディアへの信頼はわずか16.6%というのは「憂慮すべき」(Pro Futuris)結果といえる。だがメディアに「中程度の信頼」を感じている35.3%も合わせれば、信頼している人が僅差ながら多数派になる。
公共機関への信頼度を測定する連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の年次調査外部リンクでも、メディアへの評価はおしなべて低めだ。
Pro Futurisのシェラー氏によると、二極化調査もETHの結果を根本的に覆すものではない。
「国家拒否者」の増加
Pro Futurisが調査にあたり重視したのは平均的な国民像を描くことではなく、むしろ全く信頼を持たない集団にどんなリスクがあるかを追究することだった。
シェラー氏は「内閣や議会、司法といった公共機関は、国民が平均よりわずかに高い信頼を寄せるだけで、これに対処できる」が、信頼ゼロ層の増加がことを難しくしている。「100人中5~10人がまったく信頼していない場合、これらの人々との対話は難しくなる」という。
シェラー氏が危機感を抱くのは、チューリヒ応用科学大学(ZHAW)の研究結果だ。ここでは国家の正当性を拒否する人々の割合が2018年の1.3%から2024年には3.3%に増加している。
編集:Reto Gysi von Wartburg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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